2018/06/25

官庁・役所 ― おどろきの非能率

お役所へ手続きのために行ってみると、ああ!


今回は、驚くべき非能率を平然と行っていた、労働関係の某役所の、少し以前の話題だ。

この話、ある人物に話したところ「昔のソ連と同様だな」とコメントがあった。そういえば、ソビエト連邦最後の大統領ゴルバチョフは、西側の記者から社会主義の非効率をなじられたとき、
いや、社会主義が、ただひとつ、成功している国がある。 それは、日本だ。
と述懐したそうである。しかし、今回の話題は、そのゴルバチョフ閣下も驚くであろう物語だ。

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どうしても行きたがらない担当者に泣きつかれ、まったくの所管外の仕事ながら、東京の〇〇橋に行った際の、とあるお役所について、語ろう。企業に入退社すると、その手続として、労務関係のその窓口に、書類を企業から提出しなければならない。それだ。

該当のフロアーへ行くと、驚くことに、大病院の薬局で投薬待ちの外来患者のように、数百人の人々が長椅子に腰掛けて、待っている。

カウンターが10箇所くらいあり、それぞれ、2、3人の係の女子事務員さんが立って、待機している。

「株式会社~~さーん」と、左のカウンターから順に、呼ばれて、そこに書類を持って行くと、ちらっと見て、記載内容について講釈したり、スタンプ(受領印)したりしてくれる。それを、10回ほど繰り返すというわけだ。それぞれの間隔が、数十分。だから、全部、終わるのに、数時間はゆうに必要となる。たっぷりの一日仕事だ。

ただ、要するに、複写の書類を提出し、受領のスタンプをもらえばいいのだ。

だから、数百人が長椅子で待っているわけだ。だから担当外であるこの仕事が強引に、押し付けられたわけだ。

入室してその光景を目撃した瞬間、その異様さに「あ然」とし、どう考えても、これが必要不可欠な手続きであるとは考えられないことに、気づく。それに自分自身の仕事が山ほど、滞留しているのに...。

ここは一つ、非常手段の行使を行い、数分で切り抜けようと、意を決する。合法的に...。

まず、一つ目の受付に行く。長~い説明を聞いているうちに、まったく無意味なことをやらせようとしていることに気づく。そして、以下の物語を思い出した。

成規類聚、というマニュアル


斬新な視点で一世を風靡した評論家の山本七平は、かつて所属していた帝国陸軍におけるさまざまな書類上の手続が書かれてある規則書であるところの

成規類聚
(「せいきるいじゅう」と読む)

なる文書について言及している。ちなみに山本は、100人のうち96人が餓死・戦死した戦線(フィリピン・ルソン島北部のアパリ)からの数少ない生還者であり、この種の何の役にも立たない馬鹿げた規則について、満身の憤怒と悲しみをこめて批判、述懐している。

圧倒的な戦力の米軍と向かい合い、凄惨な飢餓状態のさなか、いま、まさに戦闘が開始されようというのに、この規則集を持ちだしてグダグダ言う連中が、大日本帝国陸軍には存在したというのである。

そして、悲しいかな、このグダグダ言っていた連中も、それに反抗して資材を掻っ払って戦闘に従事した連中も、その後、みんな戦死か餓死したというのである。要するに、なにもかも、すべてが無駄・徒労だったのだ。

戦後、東京の大本営から停戦命令とともに「所在の米軍に投降せよ」という命令が届いたあと、部隊でただ一人だけ英語ができた山本少尉は、従兵(将校の世話をする兵士)を伴い、使者として米軍と接触して投降の段取りを、米軍側と協議する。そして、協議を終えて所属部隊へ帰るとき、往路の途中で飢餓で歩けなくなって残置してきた従兵を収容するため帰路を急ぐと、彼の餓死してウジにおおわれた死体に出会い、号泣する。

出発に際し、山本は従兵へ「そんな体で付いて来なくていい」と言ったらしいが、「こんなときに、山本少尉殿を一人でやるわけにはいかない」と言ってきかず、無理して同行したという。山本は、彼には米軍への使者として出発する山本が唯一の生きる希望に見えたのだろう、と回想している。

山本は、結論として、どうでもいいからできるだけ良好な結果となるよう、自分の頭で全力で考えて行動せよ、と結論している。真面目で規則通りに忠実にやっていた連中は、みんな餓死し、アパリの土になってしまった、と。

また、帝国陸軍は、米軍と戦う以前に、すでにみずから崩壊し、敗北していたのだ、と...。

マニュアルがあるなら...


そこで、この役所では、以下の通りに行動した。一つ目の「カウンター」へ呼ばれて行った際に、以下のように、可能な限り、ていねいにお願いした。
本日の当方の目的は、急ぎ、この書類を提出して、受理してもらうだけの簡単な手続きのみであります。このような長時間で煩雑な手続きがどうしても必要なのなら、それを記した「規則集」なる文書が当然にして存在するはずです。それを、まずは、拝見したい。手続きというものは、やはり、規則通りにやらねばなりませんから...。
受付嬢は、キョトンとしている。それはそうであろう。こんな懇請を行う輩は、後にも先にも存在せず、空前絶後のことだったにちがいない。

とにかく、早く見せろとうながすと、奥の「ハゲ頭」氏のデスクへ行き、何やら相談している。「ハゲ頭」氏は、さらに後に位置する書類棚から、なにやら、厚さ数十センチはあるファイルを取り出し、頁をめくり始めた。待つこと5分くらい...か。

要するに、そんな事は、ここのマニュアルのどこにも記述などないのだ。そろそろ行動開始だ。
どこにも書いてない規則をタテに、このような長時間を拘束するとは、何ごとですか。勝手に「独断専行」でこんなことをやっているのでありますか? そうだとしたら、はなはだしい「専断逸脱行為」ですぞ。
「ハゲ頭」氏は、さらに必死になって文書に食い入っている。役人はこの言葉、「独断専行」や「専断逸脱行為」という語彙が、悪魔のように恐ろしいのだ。この方法で、他のすべてもカウンターでの処理(と言っても、ただ受理印のスタンプをもらうだけ)を次々と一気に通過し、合計して10分位で終了。なんのことはない。

しかし、後ろのソファーで、すでに数時間も待たされている大勢の人々は、皆、あ然としている。山本七平先生が、ニャとしている表情が脳裏をよぎる。退出するに際し、
まことに有り難うございました。心から感謝申し上げます。 ところで、このフロアの大勢の手続き要員さんたち、これ、この雇用自体が、『失業対策事業』であるわけですね。な~るほど...。
と、やや大声で言うと、ざわめいていた満座のフロア全体が、一瞬、静寂に包まれた。

ところで、この「専断逸脱行為」という用語は、もちろん、これも山本七平先生からの受け売りであって、かつての帝国陸軍においてさえ、悪魔のように恐れられた違反行為であるのだそうだ。

2018/06/04

福島原発事故-驚きの背景

原子力の研究機関、その監督官庁ともあろうものが...


「日本原子力研究開発機構」という官庁がある。

その機関がまだ
日本原子力研究所
と呼称されていたころ、東京にある、日比谷公園の近くの壮麗なビルの最上階近く、数フロアを使って、この機関の「本部」があった。

ああ、安楽の日々

そして、そこには目を疑う、驚くべき光景が広がっていた。

仕切りなどまったくない、大きなビル、ワンフロアの吹き抜けのオフィスに、この機関の大勢の係官たちがいた。

ところが、である。そのうちのほとんど全てが、業務時間中にもかかわらず、デスクが集まるいっかくの合間、合間にある、対面するソファーの長椅子 ―― ここにそれぞれ集い、手に手に「寿司屋」でお目にかかるような大きな湯のみ茶碗を持って、楽しそうに談笑、歓談しているのである。

デスクに向かい、仕事らしいことを行っている風情なのは ―― 探してみれば ―― 事務員風の女性たちのみ。率直に言って「えっ! 何、これは?」という風情...。

これが、業務の合間のたんなる「休憩」でないことは、やがて、誰であれ、容易に理解できたあろう。

なぜなら、いつも、いつその庁舎を訪ねても、同じ風景であるからだ。そう、つまり、彼らは何と、ほぼ一日中、連日、「休憩」していたのだ。ああ...。

士気の低下、モラルの崩壊、公的資金の無駄(いわゆる税金ドロボウ)は、言うまでもない。このような状況を許し、平然としていた体制とはいったい何であろうか。

あの「優秀な」記者諸君、メディア各社は、なぜ、国民にこのあ然とする体たらくを報道しなかったのだろう。

これが「原研(日本原子力研究所)」の実態だった。

そして津波が


彼らは、いったい、何をやっていたのであろうか。

この幾年かのちに、福島原発は津波に襲来され、その結果、放射能をまき散らし、近傍の地域は人間の住む場所としては壊滅した。

油断しきってまったく仕事らしい仕事をせず、彼らの士気の低下は明らかだった。これを知っている者としては、原発事故についての彼らのいかなる説明、釈明も、弁明も、未来永劫にいたるまで、絶対に信用するつもりはない。

悲しいかな、どうして、組織が、人間が、ここまで堕落できるものなのか...。

原発が、たかが「津波」で、あのようなお粗末な結末をむかえ、そして、その後の対応も、まったくできなかったとは、なんたることであろう。

日本列島は、50年ないし100年ごとに、大規模な地震・津波に襲われていた。これは太古の昔から変わるはなく、これからも、何度も、数十年ごとに、大規模な津波の襲来を受けるであろう。このことは、たんなる自然現象であって、地球という惑星のさまざまな活動の一つに過ぎない。

原発事故は、いつ起きても何の不思議もない。具体的には、海洋に面した原発だ。

なのに、彼らは漫然とノンキに「茶飲み話」に、うつつをぬかしていたである。

「専門家」としてこのような事態に対応するために、巨額の国家予算を費やして運営されてきた専門機関なのにもかかわらず、やっていたことは、この通りだったのである。

「関係者」諸氏の釈明を ―― もし、あれば、であるが ―― ぜひとも、聴きたいものである。お願いしたい。